
株式会社ヌボー生花店
人間力とAIで挑む、長野の"まちの花屋"
「デジタルが進むほど、人の温もりを」——元SE社長が人間力とAIで挑む、まちの花屋の再発明
長野市で50年以上続く生花店・ヌボー生花店。店頭に約100種の切り花が並ぶ「まちの花屋」でありながら、ITやAI活用で全国から注目を集める。元システムエンジニアという異色の二代目・山﨑年起さんに、事業の実像から、崩壊寸前だった家業を継いだ日々、そしてこれから挑む業界の未来まで、じっくりと話を聞いた。
01「まちの花屋」の実像
── まず、ヌボー生花店さんがどんな花屋さんなのか、教えていただけますか。
弊社はいわゆる生花店です。一般の方が想像されるような、街(まち)の花屋さんですね。店舗でのお花の販売と、お電話やFAX、ECサイトからいただいたご注文を配送でお届けする。この2つが業務のメインで、売上の95%を占めています。以前は冠婚葬祭を含めた装飾事業もかなり大きく手がけていたのですが、今はこの2つに絞られていて、本当に“街の花屋さんらしい花屋さん”になっています。
── その中で、売上の柱になっている商品は何でしょう。
お祝いやお供えを含めた、生花のギフトが売上の柱です。それに続くのが、ご自宅用の切り花や観葉植物といった、いわゆる“自家用”の需要ですね。商品としては生花全般ですが、園芸やエクステリア(屋外)の商品はあまり扱っていなくて、お花に関するインドア(室内)の商品がメインです。
── お客様はどういった層が中心なのですか。
売上ベースで見ると、ギフト用途は個人のお客様と法人のお客様が半々くらい。自家用はほとんどが個人のお客様です。ただ、“客数”で見ると、店舗では8割ほどが自家用の個人のお客様なんです。売上ではギフトが多いけれど、来てくださる人数では圧倒的に自家用のお客様が多い。この点は、外から見るとあまり認知されていないと思います。
── 「ギフトの花屋」というイメージと、実際にギャップがある、と。
そうですね。弊社は創業50年を超えて、地域では比較的知っていただいている花屋だと自負していますが、以前に冠婚葬祭の装飾をかなり大きくやっていたので、そのイメージで覚えてくださっている方が多いんです。一方で、自家用でお花を買われるのは、どちらかというと本当にお花が好きな方、ファンの方。幅広い層というよりニッチなお客様なので、それ以外の方からすると「自宅用にお花を買う人がそんなにいるの?」という感覚だと思います。結果として、装飾やギフトで有名な花屋、と認知されている形になっています。
── そのファンの方々が、ヌボーさんを選ぶ理由は何だとお考えですか。
いちばんは品揃えだと思います。弊社はいろいろな過渡期を経て、“次に来てくださったときに楽しんでいただけるお店づくり”を心がけてきました。自家用でお花を楽しむお客様にとって、満足度を左右するのは切り花の品揃えや種類の豊富さ、そして鮮度・品質の良さです。お客様のニーズを伺いながら、全国各地から季節ごとにさまざまなお花を仕入れて販売する努力を、今なお続けています。それが評価されて、ファンのお客様が増えてきているのだと思います。
── 店舗数や規模についても教えてください。
現在は長野市内に3店舗、従業員は2026年7月時点で23名、売上規模は2億6000万円です。全国的に見ても中規模の花屋で、店舗売上と配送注文がメイン。冠婚葬祭の割合が非常に小さい花屋としては、地方では数少ない、売上の大きな花屋のひとつに数えられると思います。

02「新鮮」と「挑戦」——強みとこだわり
── 品揃えの豊富さは、どういう仕組みで実現されているのですか。
花屋は、冠婚葬祭や業務用を除けば、店舗販売の売上規模とお花の仕入れ量が基本的に比例します。弊社は長野市内で店舗販売の売上がいちばん大きいので、その分、仕入れ量も多い。これが大きな要因のひとつです。しかも弊社は1店舗ごとに仕入れるのではなく、全店で一括仕入れして各店に分けています。だから多品種の品揃えができる。さらに、切り花を在庫として置いておくことはせず、入荷したらすぐにお客様に提供することを徹底しています。在庫しない分はすべて店頭に出しているので、店頭の品揃えも多くなる。こうしたことが複合的に組み合わさって、店頭で手に取っていただける切り花の品種や量が、他店よりもかなり多くなっているんです。
── 実際、店頭には何品種くらい並ぶのでしょう。
切り花の仕入れは通常、月・水・金です。その日の午前中に主に東京の市場からお花が届いて、仕分けと水揚げ(花を長持ちさせるために水を吸わせる処理)をして各店に配り、夕方から販売を始めます。その日に仕入れたものが、その日の夕方からすべて並ぶというのは、比較的珍しい形だと思います。仕入れの日には、だいたい100種類くらいは並んでいると考えていただいて差し支えありません。
── 仕事をする上で「ここだけは譲れない」というこだわりは。
社名の「ヌボー」は、フランス語の nouveau が語源で、“新鮮な”“新しい”という意味です。創業者は、“どこの花屋よりも新鮮なお花を提供する花屋でありたい”、そして“常に新しいことに挑戦する花屋でありたい”、この2つの想いを込めて店名をつけました。この2つの創業者の精神こそが、ヌボー生花店のこだわりでありたいと、今なお思っています。
── お客様から評価される点は、他にもありますか。
品揃えと鮮度はよく言っていただけるので、そのお約束はしっかり守ることが大切だと思っています。それに加えて最近は、販売スタッフの丁寧さや親切さ、“スタッフの人間力”を褒めていただけることが増えました。ここは特に力を入れている点です。AIのようなテクノロジーが進んで、人を介さない接客が主流になりつつあるなかで、そんな時代だからこそ、これからますます人が接客する意味が求められると思うんです。身近な人が接客してくれる、心温まる場所でありたい。笑顔で元気な、人間味のある接客ができる会社を、これからも目指していきたいと思っています。
── その品質や品揃えを支えるために、独自の設備や資格などはあるのでしょうか。
設備や資格というより、いちばん大切にしているのは“日々の仕事の基準値の底上げ”です。スタッフの自主性を活かさなければ、人の温もりが感じられる接客はできません。花屋は業務量が多くて、店頭のスタッフは常に忙しく、ゆったり接客できる環境が整っている花屋はごくわずか。特に売上のある花屋ほど、そういう環境をつくれているところは皆無に等しいんです。弊社はそれに対して、スタッフ一人ひとりの力量に左右されず、全員を戦力にするために、最低限のマニュアルやテクノロジーによる省力化、日々の改善活動など、いろいろな業務改善で仕事の基準値を高める仕組みを整えています。それを積み重ねることで、品質や品揃えのレベルを上げ、スタッフがゆとりを持って接客できる。そこを非常に大切にしています。
── 「テクノロジーによる省力化」とは、具体的にはどんな仕組みですか。
考え方としてはまず、店頭のスタッフがマルチにいろんな業務をこなさなければいけないのが花屋の実態です。そこで、できる限りパソコンを使う業務や事務的な業務を店舗から切り離して、それを専門に行う“支援事業部”を立ち上げました。この部署の目標は、各現場から業務をすくい上げてすべてカバーしつつ、人数は増やさずに同じ時間でこなせる体制をつくること。つまり一人当たりの業務量は増えますが、時間の生産性を上げていく。そのサイクルを繰り返すんです。結果として現場の業務が減り、現場は接客や店づくりに専念できて、一人当たりの売上を上げられる。支援事業部ではITを活用し、最近はAIも使いながら効率化したり、みんなの知恵で業務の順番ややり方を変えて業務を減らしたり、いろいろなアプローチで省力化しています。

03元SEが背負った、崩壊寸前の家業
── もともとは東京でシステムエンジニアをされていたそうですね。家業を継ぐ経緯を教えてください。
家業はもともと継ぐ予定はありませんでした。妹が先に実家に戻って継ぐと決まっていたんです。ただ、当時の会社が非常に多くの問題を抱えていて、かなりひどい状況だった。それを見限った妹が「継ぎたくない」と言い出して、結果的に私に白羽の矢が立ちました。システムエンジニアの仕事も楽しかったので本当は続けたかったのですが、まあ致し方ない、という思いで継ぐことにしました。
── 「かなりひどい状況」というのは、具体的には。
売上はあったのですが、組織が崩壊していて、毎月のように退職者が出る状況でした。財務も非常に悪く、いつ潰れてもおかしくない。ただ、外から見れば相当な量の仕事をこなしているように見えるし、内部のスタッフからも「これだけ忙しくて残業も多いのに、利益が出ていないはずがない」と見えていたと思います。実態とのギャップが大きかったんです。
── 引き継いで、最初に着手されたことは。
まずは経費削減です。両親が創業者だったので、公私混同も含めて、何にどれくらい費用がかかっているのかのマネジメントができていませんでした。一つひとつの経費を“何のために使っているのか”見直して、不要と判断したものは削っていく。たとえば電柱広告がたくさん出ていることにも気づかず、そのまま費用を引き落とされていた、なんてこともありました。
── 当時、経営者として大切にしていた価値観はありましたか。
正直に言うと、当時は何か信念があって仕事をしていたというより、目先でとにかく結果を出すことにこだわっていました。だからすべて自分で抱え込んでいた。ビジネス書には「起きていることの原因はすべて経営者の責任」と書かれているものが多いので、すべては我々の責任だという思いで、一つひとつ対処していました。それ自体は間違っていなかったと思います。ただ、その後に訪れたもっと大きな経営危機のときに、従業員としっかり情報を共有して、外部パートナーも含めて仲間を頼り、一緒に立ち向かえていたら、再建はもう少し早かったのではないか、という思いは今でもあります。
── その「もっと大きな経営危機」とは。
冒頭で、冠婚葬祭の装飾事業は今ほとんど売上がない、とお話ししました。あれは自分たちが意図してそうしたというより、結果的にそうなってしまったんです。私が会社に戻ったのは2006年で、当時は売上も仕事も日々こなしきれないほどあって、経費のバランスさえ整えれば利益は確保できました。ところが2010年代に入って、それまで売上の主力だった結婚式やご葬儀の仕事について、委託先から厳しい取引条件や関係の見直しが相次いだ。2010年から2020年までの10年間、売上は右肩下がりで、冠婚葬祭の売上が減り続けたことで、売上が半分になってしまいました。それでも社員を切ることはできないし、やってはならないと考えていたので、赤字がだらだら続く。経費削減だけではどうにもならない、非常に厳しい状況に陥りました。あの手この手を尽くしても、どれもうまくいかず、本当に苦しい時期でした。
── その苦しい時期を、どう乗り越えられたのですか。
乗り越えた、というより“生き残った”という言い方が正しいと思います。両親が創業して良い時代も長かったので、その頃に蓄えた財産で、なんとか維持できた、というのが正直なところです。私は2013年に社長を引き継いでいますが、これも売上が減るなかで両親と経営方針の対立が続いて、“私が辞めるか、両親が辞めるか”の二者択一を迫った結果の引き継ぎでした。ただ、私が引き継いでも経営はよくならず、社長になっても何も変えられないというもどかしさで、精神的にかなりおかしくなっていた時期もありました。あの厳しい時代を一緒に戦い抜いてくれた社員には、本当に感謝しています。当時の私はとにかく一人で抱え込んで、周りも顧みず、何かをやっては失敗し、また別のことをやっては失敗し……という負のスパイラルの中で経営していました。そこは今でも反省しています。
── その経験から得た価値観は。
“考えるよりも行動することの大切さ”でしょうか。よくPDCAと言いますが、Plan(計画)よりDo(実行)のほうがよほど重要で、Doした結果のC(検証)とA(改善)が大事だと、本にはよく書いてあります。でも、この辛い時期の経験で、それを身に染みて感じました。それまでの私は、正しいPlanを求めすぎて、うまくいかなかったのは戦略に問題があったからだ、と考えていました。でも、やってみないと結果はわからない。仕事は“量より質”ではなく“質より量”で、まず行動する。その中で、なぜうまくいったか・いかなかったかをきちんと分析して、汎用的な考え方を確立していく。これはPlanの精度より、Doの行動量から導き出されるものだと、この経験で強く学びました。もちろんPlanの精度も大事ですが、Doの行動量のほうが圧倒的に重要です。“成功するまでやり続ける”と言いますが、それもDoの行動量があってこそ。しかも、私一人の行動量より、全スタッフで取り組む行動量のほうが圧倒的に多い。だから、仲間とベクトルを合わせて一致団結し、同じ方向に行動し続けることが大事だと考えています。
── 7年ほど前、優秀な社員さんの退職がリモートワーク導入のきっかけになったとか。
そんなに綺麗な話ではなくて、当時はもう社員がどんどん辞めていく状況でした。赤字だったので、“社員が辞めることも決してネガティブではない”という、おかしな状況ですらあったんです。ただ、優秀な社員が辞めてしまう環境が続いていたら、もし会社が上向き始めても、残った人材でさらに良くしていくのは難しい。「企業は人なり」で、結局はそこにいるスタッフの質で将来の成長が決まる。だから、なんとか優秀な社員が働き続けられる環境をつくっておきたかった。仮に会社が潰れても、その取り組み自体はまったく後悔しないだろう、と。そこへの投資だけは続けようと考えた中での、ひとつの結果です。
── どうやって業務をリモート化していったのですか。
たまたまその社員が、お客様の電話対応や社内の事務、バックオフィス業務を担当していました。そういう業務なら“テクノロジーの力を使えばリモートでも可能では”という仮説を立てたんです。当時はまだIT化の途上で、のちにコロナ禍で広まるようなサービスの走りが、ちょうど世に出始めた頃でした。それを試しながら、彼女がやっていたバックオフィスや電話対応の業務をリモートでできる環境を整えていきました。今ほどテクノロジーが整っていなかったので、環境づくりにはそれなりに時間がかかりました。ただ、今思えば、ここでテクノロジーを十分に活用した経営改革ができたことは、非常に大きな成果でした。もっとも、これも結果論で、行動し続けた結果がたまたま花開いたひとつだと考えています。
── ご自身の人となりについても伺えますか。趣味や、仕事以外で大切にしていることは。
私はどちらかというと多趣味ではなく、何か一つに取り組み出すと没頭してしまうタイプで、それが良い点でもあり課題でもあります。ただ、仕事に関することは割と何でも興味を持つほうで、気になると調べてしまうし、アイデアを実行したくなる。“やりたがり”な面があります。とはいえ、自分の時間やリソースには限りがあるので、それをどこに投資すれば、自分のためにも会社のためにもスタッフのためにもなるのか——そこはかなり俯瞰的に考えるタイプかもしれません。本当は、前面に出てリーダーをやるより、参謀として誰かの右腕のように働くのが好きなんです。だからこそ、逆にそのギャップがあるからこそ、リーダーという姿を演じられているのかもしれない、と思ったりもします。結局また仕事の話になってしまいますが、頭の中の大半が仕事のことで埋まっている、そういうタイプなんだと思います。

04いま向き合う課題
── 経営者として、今いちばん頭を悩ませていることは。
花屋という商売は、いろいろなデータを見ても、最も労働生産性の低い業種のひとつです。売上に対する利益率が非常に低くて、その分、従業員の給与水準も低い。これが業界最大の課題です。インフレの時代に入って、いろいろなものが値上がりするなか、利益率を高めていかないと、従業員に十分な給料を払えません。この花屋業界の低い利益率を高収益化することが、私の最大の課題です。
── 業界全体としても、利益率は厳しいのでしょうか。
利益を出している花屋さんでも、営業利益率は数パーセントにも満たない、というデータがあります。冠婚葬祭や卸売など複合的な業務で利益を上げている花屋さんはありますが、店舗販売を中心とした事業体だけでしっかり利益を残している会社は、全国的に見てもかなり稀です。そこを改善しなければ、この業界に未来はないと感じています。
── その課題に対して、これまでどんな手を打ってこられましたか。
まずは一人当たりの売上、一人当たりの利益率を高めることが最も重要です。シンプルに言えば、分母を増やさず分子を増やすか、分子が増えない中で分母を減らすか、どちらかしかない。その両方を同時に進めるしかありません。売上が簡単に伸びない時代に、いかに省力化するか。これに正解はないので、私だけの考えではなく、いかに全員の行動量を増やし続けられるかがテーマになります。そのために弊社では、パートさんを含めた全従業員が、毎週1回、労働生産性を高める改善提案を出す取り組みを、2年ほど続けています。毎週20数個の提案が上がってきて、すべてを採用するわけではありませんが、改善を積み重ねていく。手法としては、テクノロジーやAIを使うこともあれば、業務のやり方を抜本的に見直すこともあるし、その業務自体をやめてしまうこともあります。正解はありませんが、仲間とアイデアを出し合って、毎日の1分1秒を削り続けてきたことで、この2年で労働生産性は大きく改善したと思います。
── 実際に効果が大きかった改善の例は。
最近だと、やはりAIを活用した業務改善の成果が大きいです。たとえば、お客様向けに毎週必ず作っているPOP(店頭の案内・値札)を、AIの画像生成機能で自動的につくる仕組みを最近実装しました。これでスタッフの作業時間を大幅に削減できました。毎週バックオフィスでルーティン的にやっていた業務を完全に自動化して、人を介さず毎日自動で行われるようにできた部分もあります。一つひとつはものすごく大きな時間ではないのですが、年間で考えると非常に大きな削減につながっています。ただ、AIを使うことがゴールというより、“こういうことができないか”というアイデアの解決策として、たまたまAIが使えた、というのが正直なところです。最初からAI活用ありきでやっていたわけではありません。
── それでもなお残る、いちばん手強い課題は。
いちばんの問題は、対お客様の業務です。弊社はお客様商売で、いろいろなニーズや価値観を持つ一般のお客様がメインです。当然、こちらの思う通りに動いてくださるわけではありません。ひとつのご注文に長い接客時間がかかることもあるし、無理難題を言われることもある。できることもできないこともありますが、その接客で丁寧に対応しなければ、満足していただけません。一つひとつ丁寧に接客する、その時間の積み重ねは、本来かなりの業務量です。効率化のアイデアはたくさんあるのですが、お客様の満足度とのトレードオフがある。お客様対応の効率化はやりすぎると、売上や利益のマイナスに直結してしまう。そのトレードオフをどこで保つかが非常に難しい。接客で選んでいただける会社でありたい気持ちがある一方で、利益だけを見れば非効率な部分も多い。この非効率をどこまで許容できるか。そして、その非効率を許容できるように、お客様に関わらない業務をどこまで効率化できるか。ここに挑戦しているのが現状です。
── この課題について、誰かに相談したいと思われますか。
これは理屈論とお客様の感情論が違うので、発想の転換が必要だと考えています。今の業務ややり方の延長線上では、おそらく一生解決しません。まったく別の視点や他業種の取り組み、時代の流れとしてある程度許容できることは変えていく、そういうトレンドを取り入れることが大事かなと。あとは、そもそも商品自体の利益率によって許容できる範囲も変わるので、利益率の高い商品開発も必要だと思います。だから特定の誰かに相談するというより、いろいろな方の話を聞きながらアイデアを吸収していくのがベターだと考えています。
── 実際に「参考になる」と感じた他業種の事例は。
私が一消費者として体験した顧客サービスが、いちばん参考になります。具体的にというと難しいのですが、いろいろなお店やサービスを使う中で「これは便利だな」と思ったことを、自社に置き換えたら何か新しいサービスにできないか、と考えています。ひとつ思い出しました。少し前に、移動でフェリーに乗ったとき、ネット予約の方法がわからなくて電話で予約したんです。そのすぐ後に、ショートメッセージ(SMS)で「予約を承りました」と届いた。これがすごくありがたくて、安心するな、と感じました。花屋も電話でのご注文がかなりあります。でも電話だと、どんな内容で承ったかを確認する手段が言葉の説明だけで終わってしまって、あとはお届けの当日まで、何がどうなっているのかわからない状態でした。そこで弊社でも、お電話で承った翌日に「こういう内容で承りました」というメッセージが届くようにサービスを改善しました。将来的には、そのメッセージから予約の変更やキャンセルができるようにもしたいと考えています。
── 中期的に、不安に感じていることは。
やはり供給不足の問題です。切り花の国内の生産環境は、年々悪化しています。成り手不足もありますが、そもそも花屋以上に労働生産性が低くて儲かりにくい生産環境の中で、良質な国産の花木の供給量を維持していくことが非常に重要です。出荷される切り花なくして我々の商売は成り立ちませんが、今はそこが成り行き任せになっている。だから、その問題解決に対して、我々が何か直接的にソリューションを提供できるようになれないか、主体的に取り組める活動を今後はしていきたいと考えています。
── 具体的に、どんな方の知見を聞いてみたいですか。
特に、果樹生産をある程度大規模にやられている方の話を聞いてみたいです。仮に我々が農業や花の生産に何かアプローチするにしても、まずは長野市やその近隣で適地適作できる作物へのアプローチができることだと思います。そう考えると、切り花よりも枝物といった生産に何かアプローチすることが、業界のためでもあり、我々のためでもある。その点で、長野市周辺で果樹などを生産されている方々の知見は、我々にとって非常に参考になると考えています。

05これから——業界の未来をひらく
── 少し先の未来について。「将来こんなことをやってみたい」という思いは。
弊社も含めて、地域の花屋のビジネスモデルは今、非常に厳しい状況にあります。地域の花屋が持続的に成長できる先駆的なビジネスモデルを確立して、それを全国各地の花屋に展開していくことが、私にとって非常に重要なミッションだと考えています。そのために、弊社自体が最大の実験場所。ここで取り組んださまざまな知見——先ほどの“Do”の大量の行動量の中から——を積み重ねて、汎用化・システム化し、横展開していく。それを花屋さん向けのコンサルティングや、フランチャイズ的なビジネスモデルの販売につなげながら、ヌボーの利益率を高めつつ、業界全体の利益率も高めていく。これからはそこに集中的に取り組みたいと考えています。
── すでに別会社で実践されているとか。
はい、“はなやのミカタ”という会社名でやっています。今は全国各地の約10社の花屋さん向けにコンサルティングをしながら、花屋さん向けの無料セミナーの開催や、いろいろな情報発信、さらにAIを活用した花屋向けのシステム開発などを行っています。
── その展開を加速させる上で、「これが足りない」と感じるものは。
残念ながら、それほど資金があるわけではないので、“はなやのミカタ”の事業も、私の労力が完全にボトルネックになっています。この業界の中で、私のこうした取り組みに興味を持って、投資してくださったり、いろいろ協力してくださる仲間が増えていけば、確実にこの事業は加速すると考えています。
── どんな業種・立場の方と組みたいと考えていますか。
今、特に力を入れているのが、花屋のDX化・AX化です。業界全体として取り組みが遅れているのですが、ただテクノロジーを使えばお客様が満足するかというと、そうではありません。先ほどのとおり、お客様の利便性と利益を出すことにはトレードオフがある。だから、お客様が使いたくなって、結果的にそれが花屋の利益につながるようなサービス開発が必要です。たとえば弊社が開発した“来店受取型のモバイルオーダー”は、花屋に電話しなくても、ネット上で花束やアレンジメントを受け取るための来店予約ができるサービスです。こうしたサービスはお客様の潜在ニーズではあったのですが、花屋向けの特殊な仕組みが必要で、業界がニッチなぶん、これまでベンダーが興味を持ってくれる分野ではありませんでした。大手のSaaSではなくニッチな業種のSaaSは、投資対効果が低くて生まれてこなかった。でも、AIの登場で開発コストが劇的に下がっているので、こうした開発は進んでいくと睨んでいます。ただ、結局はお客様に使っていただけなければ意味がないので、そのサービスのUIやUXがいかに優れているかが勝負です。特にB2Cのサービスは、使いやすさ、わかりやすさ、顧客体験の良さが、使ってもらえるかの明暗を分けます。単なる便利さより、そこが重視される。だから心理学的なところや最新のUXの知見が必要で、そういうことに長けた方が仲間に一人でもいてくださると、非常にありがたいと思っています。
── 最後に、5年後、どんな姿になっていたら理想的だとお考えですか。
私の将来の目標は、“100店舗100億”の花屋のグループ事業体をつくることです。1店舗1店舗の看板は違っていて、まったく構いません。地方の花屋がある程度グループ化して、業界にインパクトを起こせる事業体をつくらなければ、業界貢献もできないし、お客様向けのサービス開発も進められない。そういうグループ体があれば、確実に業界に貢献できると考えています。その中で、ヌボーが担うべきところ、そこに向けて“はなやのミカタ”ができること、他社にも貢献していただきたいこと——いろいろあります。それらを複合的に組み合わせながら、とにかくこの業界が持続可能になるための足掛かりを私がつくって、引退したい。そう考えています。
会社概要
- 会社名
- 株式会社ヌボー生花店
- 代表者
- 山﨑年起
- 所在地
- 長野県長野市北尾張部715-7
- 事業内容
- 生花の店頭販売と、電話・FAX・ECのご注文の配送。お祝い・お供えのギフトと、ご自宅用の切り花・観葉植物を扱う「まちの花屋」。長野市内3店舗。
- 創業
- 1974年
- 従業員数
- 23名
- 業種
- 卸売業,小売業
- 電話
- 0120-878-718